フィリピンの税法体系
2023年1月25日
🟧フィリピンの税法体系を以下簡単にご説明します。
(Accounting and Tax guide in the Philippines 2018を根拠に)
▪️フィリピンの国税は内国歳入法 (National Internal Revenue Code) を 基準法としています。
これを補足、修正するものとして財務大臣が 承認する歳入規則 (RR: Revenue Regulation) を始め、RMO (Revenue Memorandum Order) やRMC (Revenue Memorandum Circular) 等の税務 通達がBIRから随時公表されています。
また、個別の納税者からの特定 の事例に関する質問に答える形でBIR Rulingという見解書が発行され、 公式に運用されている点もその特徴です。
🟧法人税
❶税法上の法人分類と課税対象
納税義務者の種類
・課税対象所得
内国法人(フィリピンの法に基づき
設立された法人のこと日本の会社のフィリピン現地法人も該当する)
・居住外国法人
フィリピン国外の法に基 <フィリピン源泉所得> づき設立され、フィリピ 課税年度中に取得した国 ン国内で事業を営んでい 内源泉所得 る法人のこと(日本など外国法人のフィ
リピン支店が該当)
・非居住外国法人
フィリピン国外の法に基づき設立され、フィリピン国内で事業を営まない(恒久的施設を有さない)法人のこと
▶︎<フィリピン源泉所得>
課税年度中に取得した国
内源泉所得のうち利息、
配当、賃貸料、ロイヤル
ティなど
▶︎所得税<全世界所得>
課税年度中に取得した国内および国外源泉の全課税所得
❷ 課税年度
原則として暦年基準 (12月決算)が採用されていますが、会社が規定 した12ヶ月間からなる事業年度を課税年度とすることが認められて います。但し、一課税期間は12ヶ月を超えることができません (15ヶ 月決算は認められません)。従って、決算期を変更する場合は、一旦 12ヶ月に満たない会計期間で決算書の作成と税務申告手続を行う必 要があります。
❸ 法人税率
課税所得に対して一律25%
課税所得は、総所得から必要経費を差し引いた金額をいいます。総 所得とは主に事業所得 (売上高から売上返品、値引、割戻し及び売 上原価を差し引いた金額) や事業用資産の売却益、利息などが含ま れ、源泉分離課税課税所得 (預金利息、受取配当金など)や別途申告 を行う株式や投資不動産のキャピタルゲインは除外される。
❹ 損金に関する定め
課税期間中に生じた費用で、事業との直接的な関連性があり、且つ
根拠証憑を適切に具備しているものは、税務上の費用(損金)に算
入することが認められています。
- 貿易、事業及び専門職能の開発、管理、オペレーション並びに 実施の過程で支出され又は発生し、またはそれらに直接関連す るもの
- 実際に提供された個人の役務に対する給与、賃金その他の形態 による報酬額 (諸手当の金銭相当額総額を含む)
- 営業その他の目的のために居住地を離れている間の国内・海外 旅費
- 事業に使用されている固定資産の賃借料その他類似の費用
- 事業開発等に直接要する交際費で、財務省長官の規定する上限 額を超えないもの
– 法律及び公序良俗に反する費用は除く
– 政府職員又は私企業に対する賄賂、リベートその他は損金 算入不可
- また、納税者には税法の求めにより実証義務が課せられてお り、領収書 (Official Receipt) その他の適切な記録をもって、下 記の事項を証明しなければならないとされています。
– 事業等との直接の関連性 – 費用額の記載
❺ 最低法人税制度 (Minimum Corporate Income Tax)
最低法人税とは、事業開始年度より4期目以降、正味課税所得がマイ ナスの場合、もしくは通常法人税額 (30%) がMCIT (最低法人税額) を下回る場合に課せられる税金のことです。赤字法人であっても納 税義務が生じるのが特徴です。
- MCITは、総所得 (Gross Income) を課税標準として2%の税率を 乗じることにより計算されます。 「総所得 (Gross Income)」と は、総収入(≒売上)から売上返品、値引、割戻及び売上原価 を差し引いた金額 です。
- 通常の法人税額 (30%)とMCIT (総所得の2%) を比較していずれ か高い金額を納付します。
- 当該年度の通常の法人税額を上回る部分のMCITの税額は翌年度 より3年間繰延べることができ、その間における通常の法人税額 から控除することが認められます。なお、MCITそのものとの相 殺は認められません。
❻ 不当留保金課税制度 (Improperly Accumulated Earnings Tax)
不当留保金課税制度 (IAET) は、利益を配当する代りに留保すること により、株主に関する所得税回避目的で設立され又は利用される法 人に適用されます。
- 原則として、毎課税期間、企業内に不当に留保された課税所得 に対して10%の税金が課せられる制度です。内国法人が当該法人 への株主 (個人)への課税を回避するために不当に多くの利益を 留保することを防止するためのものとなります。これは、特に 所お有と経営が一致しているような同族会社において、大株主で ある社長 (個人)に配当を行う場合、個人所得税が課せられるこ とになり、法人内に利益を留保するインセンティブが生じるた め、これに対処するための制度と言えます。
- 利益の不当留保の明白な証拠:剰余金累計額が払込済資本を超 えている場合、事業上の合理的な理由がない限り、利益の不当 留保の明白な証拠となります。
- 不当留保金課税の対象から除かれるケース • 公的に所有された企業
- 銀行及びその他金融機関
- 保険会社
- 経済特区に登録された企業等(PEZA企業等)
- 制度の趣旨が、同族会社の租税回避行為を防止することにある ため、日本の上場会社のフィリピン子会社が不当留保金課税の 対象となるケースは実務的にはあまりないと考えられます。
- なお、フィリピンでは過小資本に対して課税する税法ルールは 現時点ではありません。
(フィリピン会社法第43条に基づく超過剰余金保持の禁止規定‐参考情 報)
不当留保金課税制度 (IAET)とは別の制度として、フィリピン会社法 上、「株式会社は資本金を超える剰余金を保持することが禁止される」 (会社法第43条後段)という規定が存在します。IAETと異なり、この規定 はPEZA企業であっても免除はされず、また日本の親会社の100%子会社 であっても適用されます。よって、SECの要求により、超過剰余金が存 在する会社は、財務諸表の注記において超過剰余金の使途 (配当、拡張 投資等) を開示しなければならず、これに従わない場合、罰金等のペナ ルティの対象となります。