廃業を検討する会社を買収する『 4 つのスキーム』
2023年3月10日
ゼロベースから新たな事業を立ち上げる場合には、設備や人材といったさまざまな経営資源を整備するために多くの費用や時間がかかります。
しかし、廃業する会社を買う場合は、既に取引先や人材、ノウハウといった経営資源が存在しています。
買い手側企業はこれらの経営資源をそのまま引き継げるので、迅速に事業を開始できます。また、収益を獲得できるまでの時間も短縮。
一方で以下注意
❶簿外債務
貸借対照表に記載されていない隠れ借金を指します。簿外債務がある会社を買収すると、その借金を負担しなければならなくなります。
❷事前のデューデリジェンスをしっかり行う。
簿外債務の有無をきちんと把握しておく必要があります。具体例を挙げると、前の経営者が秘密裏に銀行から融資を受けていたような場合には、買収によってその融資の返済義務が買い手側企業に移ってしまう。
❸取引先や従業員の離脱を防ぐM&Aの実施後に取引先や従業員と緊密なコミュニケーションを行うことが大切です。
そのため買い手側企業は、買収が成立するまでのプロセスだけでなく、統合後のプロセスにも注力することが必要不可欠だと言えます。
🟨結論
廃業を検討する会社を買収する方法として、主に4つのスキームが挙げられます。
① 株式譲渡
株式譲渡とは、売り手側企業のオーナーが保有する株式を買い手側企業に譲渡(売却)することによって、会社の経営を引き継ぐM&Aスキームです。
売り手側企業と買い手側企業が株式譲渡契約書を締結し、株式の対価が売り手側企業に支払われたら、株主名簿を書き換えて手続きは完了します。他のM&Aのスキームと比較すると簡便な方法なので、中小企業のM&A取引ではもっともよく利用されるスキームと言えます。
株式譲渡を用いるメリットは、取引先との契約や従業員との雇用契約をそのまま引き継ぐことができる点にあります。個別にあらためて契約をし直さなくてもよいので、手間やコストを抑えられます。また、原則として売り手側企業の資産を承継する手続きもありません。
②事業譲渡
事業譲渡とは、会社が経営している事業の全部あるいは一部を他社に売却することを指します。
会社全体を丸ごと売却する株式譲渡と異なり、譲渡対象とする事業を選べる点が大きな違いです。
それゆえに、不要な事業を引き継ぐ必要がない点がメリットとして挙げられます。また、事業譲渡では負債を引き継ぐ必要がありません。
また、株式譲渡とは異なり事業だけを譲り受けることから、元の対象会社に紐づくリスクは引き継ぎません。(もちろん、引き受けた資産そのものにリスクが紐づいている場合には遮断できません。)
対象会社に紐づく潜在リスクを遮断するという観点で、事業譲渡は優れた手法といえます。
事業譲渡は売り手側企業の経営者だけで決定することは難しく、従業員や取引先から同意を得る必要があります。そのため、株式譲渡等と比べて手続きがスムーズに進みにくいという懸念が存在します。
また、新たに事業に必要な許認可を申請しなければならない点や、競業避止義務(会社法21条)によれば、同一市町村区域内では同じ業界で事業を営むことができない、などの点にも注意が必要です。
③会社分割
会社分割とは、会社の一部または全ての事業を切り離し、別会社に移転するM&Aスキームです。
多くの場合、第三者に事業を継承してもらい、企業再編を図るために用いられます。
会社分割には、既存の会社に事業を移転する「吸収分割」と、新設した会社に移転する「新設分割」の2種類があります。
任意の事業だけをピンポイントに譲渡できるため、影響範囲を最小限に抑えられます。また、取引先や従業員の雇用契約を引き継げる点もメリットです。
また組織をスリム化することによって、業務の効率化を図れる点もメリットです。買収の対価は現金に限らず株式も認められているため、資金面の負担が抑えられる点もメリットに挙げられるでしょう。
一方で、売り手の債務も引き継いでしまうリスクがあります。また、買い手側企業が上場企業の場合には1株当たりの利益が減って株価が低下するリスクも考えられます。
業種によっては許認可の再取得がネックとなり、分割が実現できない可能性もある点にも注意が必要です。
④合併
合併とは、複数の会社を1つの会社に統合するストラクチャーです。合併には、合併で消滅する会社が保有していたすべての権利義務を、合併後に存続する会社が引き継ぐ「吸収合併」と、新たに設立する会社が引き継ぐ「新設合併」が存在します。
合併の主なメリットは、合併の対価に自社株の交付が認められているため、資金調達の負担が抑えられる点、権利義務や資産負債を包括的に承継できるため移行がスムーズであることが挙げられます。
一方で、売り手側の法人が消滅する点や買い手の価値変動リスクを負う可能性がある点、買い手が非上場企業の場合には交付された株式を現金化することが難しい点などに注意が必要です。